十一月十一日。 爺さんはまた七里の森なかの峠を越えて梓山村へ帰つてゆくのである。わたしは一人、三峰山に登つた。そして其処を降つて、昨日尾根から見損つた中津川が、荒川に落ち合ふ所を見度く、二里ばかり渓沿ひに遡つて、名も落合村といふまで行つて泊つた。 翌日は東京に出、ルックサックや着茣蓙を多くの友達に笑はれながら一泊、十七日目だかに沼津の家に帰つた。 日暮れて、ぞく/\と寒さの募る夕闇に漸く峠の麓村栃本といふへ降り着いた。此処は秩父の谷の一番つめの部落であるさうだ。其処では秩父四百竃の草分と呼ばれてゐる旧家に頼んで一宿さして貰うた。 十一月十日。 満天の星である。切れる様な水で顔を洗ひ、囲炉裡にどんどと焚いて、お茶代りの般若湯を嘗めてゐると、やがて味噌汁が出来、飯が出た。味噌汁には驚いた。内儀は初め馬の秣桶で、大根の葉の切つたのか何かを掻きまぜてゐたが、やがてその手を囲炉裡にかゝつた大鍋の漸くぬるみかけた水に突つ込んでばしや/\と洗つた。その鍋へ直ちに味噌を入れ、大根を入れ、斯くて味噌汁が出来上つたのである。 馬たちはまだ寝てゐた。大きい身体をやゝ円めに曲げて眠つてゐる姿は、実に可愛いゝものであつた。毛のつやもよかつた。これならお前たちと一つ鍋のものをたべても左程きたなくはないぞよと心の中で言ひかけつゝ、味噌汁をおいしくいたゞいた。